堅実なワークフロー:シートを先に、アングルを次に、ページは最後
すべてのページをひとりの作家が描いたように見せる方法。キャラクター、物、場所を書き出し、3Dツールでカメラを設定してから、ページを描きます。そのあと「領域を修正(Fix an area)」や描き直し、Pro Studioで気になるところを直しましょう。
うまくまとまらないコミックの原因は、たいていひとつです。世界観を決める前にページを描いてしまっているのです。4ページ目で主人公のジャケットの色が変わり、カフェに窓がひとつ増え、剣が短くなる。読者は問題を言葉にできなくても、違和感を覚えます。物語が現実味を失うのです。
コンピューターが登場するずっと前から、漫画家たちはこの問題を解決していました。エルジェはタンタンと仲間たちの厳密なモデルシートを用意していたので、1950年に描かれた顔も、1975年に描かれた顔も同じでした。彼の代名詞となり、のちに リーニュ・クレール と呼ばれるようになった、くっきりと均一な線は、すべての絵が同じルールに従ってこそ成り立ちます。手塚治虫はさらに一歩進み、「スターシステム」を取り入れました。固定されたキャラクターデザインを、俳優のように別々の物語で使い回し、それぞれの見た目を決めていたのです。ふたりの出発点は同じ考え方でした。デザインを一度決めて、それに沿って描く。
このガイドでは、その考え方をInkroostで順を追って紹介します。文章を入力して**最初のページを描く(Draw my first page)**を押すより、始めるまでに時間はかかります。でも、最後まで仕上げるのはずっと早くなります。描き直すページではなく、残しておくページにクレジットを使えるからです。
順番が大切です。
- キャラクターシートと参考画像
- 小道具シート
- 間取りの情報を含む場所シート
- 3Dルームでカメラアングルとポーズを設定
- それからページを描く
- 気になるところを修正:領域の修正、連続性の確認、描き直し
- Pro Studioで細部まで正確に調整
各ステップが、次のステップをよりよくします。ひとつ飛ばしても何かが壊れるわけではありませんが、あとで手作業で直すことになるズレとして表れます。
1. キャラクターシート:どんな人物かを決めて、一度描く
まず最初に行う理由。 ひとつの絵は、その前のページを覚えていません。ページごとに、渡された言葉をもとに画像が新しく作られます。その言葉に「マーラ」と書かれていれば、マーラがどんな見た目かを推測するしかなく、その推測は毎回変わります。シートがその記憶になります。キャラクターのシートを作った時点から、その名前が文章に出てくるページには、シートが自動で添付されて描かれます。
方法。 Creator Studioでシリーズを開き、シリーズ情報(Series info)、次に**キャラクター、場所、小道具(Characters, places and props)**へ進み、**シートを追加(Add a sheet)の下にあるキャラクター(Character)を押します(次の手順では場所(Place)または小道具(Prop)**を選びます)。Inkyを使う場合は、誰かを描く前にシートを作成してくれます。また、自分の物語に登場するキャラクターなら、どんな見た目かを尋ねてくれます。

書く内容。 キャラクターをひと目で見分けられる特徴を書きましょう。面白さを伝える説明ではありません。
- 髪: 長さ、色、髪型、分け目。
- 目: 色と形。
- 肌と体格: 背が高く細身、背が低くがっしりしている、など。
- いつもの服装。 色まで書きます。
- 目立つ特徴をひとつかふたつ: 傷、丸眼鏡、決して外さない赤いスカーフなど。
よい例:「左分けの肩までの黒髪、細い灰色の目、背が高く痩せている、オリーブ色の肌、白いシャツの上に長い紺色のコート、右眉を横切る小さな傷。」
避けたい例:「謎めいた、陰のある探偵。つらい過去を抱えている。」これでは絵にできる情報がありません。

参考画像を描く。 **シートを描く(Draw the sheet)**を押すと、シリーズの画風でキャラクターの参考画像が作られます。言葉は説明になりますが、絵は見た目を固定します。この絵がページごとの顔を安定させるので、納得いくまで時間をかけましょう。違っていたら、シートを変更してもう一度描きます。そのキャラクターが登場するページをひとつでも描く前に済ませてください。

巨匠から学ぶ。 エルジェのキャラクターが、少数の力強くシンプルな形でできていることに注目しましょう。タンタンの前髪、ハドック船長のひげと帽子などです。特徴的なシルエットは、どんなアングルや描き方でも見分けられます。主人公にもそうした特徴をひとつかふたつ与えれば、小さな背景のコマでも見分けられます。
よくある間違い
- 外見ではなく性格を書く。性格はメモに書き、シートには見た目を書きましょう。
- ほとんど同じ説明のキャラクターがふたりいる(「若い女性、茶色の髪」など)。髪型、身長、服の色など、シルエットで違いをつけましょう。
- 何も書かずに章の途中で服装を変える。着替える場合は、そのページの文章に書きましょう。
2. 小道具シート:何度も登場する物
理由。 ページごとに電話、剣、車、家族の指輪などを描き直してしまうのは、顔の次によくあるズレです。読者はクローズアップでそれに気づきます。
方法。 同じ一覧で、複数回登場する物それぞれにシートを追加します。商品説明のように、形、手と比べた大きさ、素材、色、数の決まった特徴(「左上の角に三角形に並んだ丸いレンズが3つ」など)を書きましょう。数と位置を指定した情報が、同じ見た目を保つ鍵です。物語の中で実際に使う短い呼び名も追加しましょう。「彼女の電話」や「刃」などを書いておけば、そうした名前を文章に使ったときにシートが適用されます。

よくある間違い
- 見た目ではなく、何に使うかを説明する。
- 大きさを書き忘れる。手や人と比べてどのくらいの大きさかを書きましょう。
3. 場所シート:誰かが立つ前に部屋を決める
理由。 アルザックやアンカルを生み出したフランスの作家、メビウスは、生活感のある世界で知られています。街も砂漠も廊下もそれぞれの道理があり、決して矛盾しません。同じ効果を出すのに、彼ほどの技量は必要ありません。必要なのは、部屋をあらかじめ決めておくこと。そうすれば、カフェの2つ目の場面も、同じカフェになります。
方法。 物語で繰り返し登場する場所それぞれに、場所シートを追加します。シートの中でも特に重要な**間取りの情報(Floor plan facts)**を記入します。部屋を文章で説明するだけでは、ページごとに窓の数を変えて描けてしまいます。しかし、壁ごとに名前を付けて数を決めた情報なら変わりません。次のような事実を書きましょう。
- 「東側の壁沿いにカウンター、その前にスツールが3脚。」
- 「通り側(南)に窓が2つ、その間にドア。」
- 「北西の角に螺旋階段。」

キャラクターと同じように、その場所の参考画像も描きます。
よくある間違い
- 間取りではなく雰囲気を書く(「居心地がよく、あたたかい」など)。雰囲気はページの文章に書き、シートには家具を記録しましょう。
- 物がどの壁にあるかを書き忘れる。カメラによって左右は変わりますが、北、南、東、西は変わりません。
4. カメラアングルとポーズ:映画のセットのようにショットを設定する
理由。 大友克洋のAKIRAは、その環境描写が研究されています。説得力のある遠近法で、街の一区画全体をさまざまな視点から描きながら、いつも同じ街に見せているのです。その一貫性は、カメラの位置を決める前に空間を3Dで把握していることから生まれます。対照的な技術の手本となるのが、ジャック・カービーです。動きのあるポーズの人体や、強い短縮法によって読者に向かって突き出された手足は、アクションを瞬時に伝えます。Inkroostでは、3Dツールを使ってその両方を実現できます。
3Dルーム。 場所シートで**3Dルームとカメラアングル(3D room and camera angles)**を開き、**3Dルームを設定(Set up the 3D room)**を選びます。間取りの情報をもとに、シンプルなブロックで部屋が組み立てられます。位置が違うブロックは動かし、足りないものを追加しましょう。意図的にシンプルな見た目にしてあります。これはレイアウトを固定するためのもので、完成画像ではありません。

カメラアングル。 ビューをドラッグして、カウンターから見た店の入口など、物語で繰り返し登場するショットを枠に収めます。**このビューに名前を付ける(Name this view)で、ページに使う言葉を入力します。たとえば「店の入口、正面ドア」と入力し、カメラアングルとして保存します。以降、その言葉を文章で使ったページは、部屋の形状情報とともに、まったく同じ視点から描かれます。章のその他のオプション(More options)**から、1ページだけにアングルを指定することもできます。
ポーズ。 言葉で説明しにくいキャラクターのポーズを作るには、Pro Studioでページを開き、キャラクターを選び、新しいポーズ(New pose)、次にマネキンにポーズをつける(Pose a mannequin)を選びます。シンプルな灰色の人物モデルが3Dで表示されます。腕、脚、頭、または腰をタップし、リングか曲げる(Bend)、ひねる(Twist)、**傾ける(Side)**のスライダーで動かします。人物モデルの周りをドラッグして、カメラの位置を選びます。引き継がれるのはポーズだけです。キャラクターの見た目は、引き続きそのキャラクター自身のシートをもとに描かれます。

巨匠から学ぶ。 アングルを保存する前に、監督になったつもりで考えてみましょう。見る人はどこに立っていて、なぜそこにいるのでしょうか。ローアングルはキャラクターを大きく見せ、ハイアングルは小さく見せます。ワイドショットは、クローズアップが始まる前に読者へ場所の全体像を伝えます。コミックとシークエンシャルアートが今も技法の定番書であるウィル・アイズナーは、コマを舞台、読者の視線を観客として捉えていました。まず導入のアングルを決め、会話用の切り返しアングルも設定して、繰り返し使いましょう。
よくある間違い
- ページごとにアングルを保存する。繰り返し使う少数の視点を保存しましょう。一貫性はそこから生まれます。
- ページで使わない言葉をアングル名にする。ページがアングルを見つける手がかりは、その名前です。
5. それからページを描く
ここで描く理由。 シート、部屋、保存したアングルがそろっていれば、どのページも正しい顔、物、家具、そして決まったカメラで描かれます。最初から合わないとわかっているページに、クレジットを使わずに済みます。
方法。 各ページの文章は、作家に指示を出すように書きます。コマに誰がいるか、何をするか、カメラがどこにあるか、読者に何を感じてほしいかを伝えましょう。シートに書いた名前と、保存したアングルの言葉を使います。各コマの内容は、ひとつの明確な動きに絞りましょう。

スコット・マクラウドのコミック論では、読者がコマとコマの間で行う飛躍に名前が付けられています。瞬間から瞬間へ、動作から動作へ、主題から主題へ、場面から場面へ、という移行です。よいページの多くは、動作から動作へ、主題から主題へと移ります。すべてのコマで新しい場面に飛ぶと、読者は迷ってしまいます。すべてのコマがほんの一瞬だと、物語はなかなか進みません。意図を持って移行を選びましょう。
浦沢直樹のMONSTERは、ページをまたぐペース配分の手本です。静かなコマで緊張感を高め、ページをめくった先に明かされるように見せ場を取っておきます。章を計画するときは、各ページをどこで終えるか決めましょう。右ページの最後のコマには、問いを置くのが効果的です。
よくある間違い
- コマが多すぎて、セリフも多すぎる。ページに9コマ必要なら、それぞれに意味があるか確かめましょう。
- シートに登録されていない愛称を使う。シートの名前に追加するか、フルネームを使いましょう。
6. 気になるところを修正:領域の修正、連続性の確認、描き直し
理由。 すべてを設定しても、指が一本多かったり、小道具を持つ手が違ったりする絵ができることはあります。ページ全体を描き直すより、一部分だけ直すほうが安くて安全です。気に入っていた部分をそのまま残せるからです。
連続性。 新しいページは、前のページやシートと照らし合わせて確認されます。各画像には**連続性(Continuity)スコアと、見つかった内容の短い一覧が表示されます。ページに複数の画像がある場合は、最もよくつながるものにおすすめ(Recommended)**と表示されます。
領域を修正する。 確認画面の画像、または保存したページのメニューから**領域を修正(Fix an area)**を押します。マウスか指で問題の箇所を囲み、どう変えるべきかを入力します。「この手の指は5本にする」「指輪は彼女の左手にある」などです。囲んだ部分だけが描き直され、結果は元の画像の横に表示されるので、どちらを使うか選べます。連続性チェックで問題が見つかった場合は、**ここを修正(Fix this)**を押すと、該当箇所がすでに囲まれた状態でエディターが開きます。

ページ自体、つまりコマの配置や場面が間違っている場合に限り、ページ全体を描き直すようにしましょう。細部の修正には使いません。**このページをもう一度描く(Draw this page again)**を使い、同じ結果が戻ってこないよう、先にページの文章を変更しましょう。
よくある間違い
- 手を直すためにページ全体を描き直す。手だけを囲みましょう。
- 曖昧な修正メモを書く(「もっとよくする」など)。何をどう変えるべきか、具体的に書きましょう。
7. Pro Studioで細部まで正確に調整する
理由。 Creator Studioは、入力した言葉をもとにページを決めてくれます。Pro Studioでは、自分でページを決められます。各コマをどこに置くか、何を描くかを選べます。表紙、見開きページ、章の最後の見せ場など、特に大切なページに使いましょう。
方法。 ページのメニューから**Pro Studioで開く(Open in Pro Studio)**を選びます。すべてのクリエイターが利用でき、描画ごとにクレジットを使います。描く前に料金が表示されます。パソコンでもタブレットでも使えます。

- ページをレイアウトする: レイアウトを選ぶか、自分でコマ枠を描き、分割や結合をして、コマ間の余白と塗り足しを設定します。
- パーツごとにコマを作る: 背景、キャラクター、小道具、効果はそれぞれ別のレイヤーです。ほかの部分に触れずに、移動、サイズ変更、反転、非表示、描き直しができます。
- コマを分解する: 既存のコマをレイヤーに分け、背後の背景を補完します。
- **新しいポーズ(New pose)とマネキンにポーズをつける(Pose a mannequin)**で、ボディランゲージを正確に設定します。
- **文字入れ(Lettering)**は、すべてのレイヤーの上に編集可能な状態で配置されます。
Pro Studioで作ったページも通常のページです。読者向けの表示、書き出し、Creator Studioで使え、Proバッジが付きます。
よくある間違い
- すべてのページにPro Studioを使う。細かさが必要なページに使い、それ以外はCreator Studioに描いてもらいましょう。
要点
まず決め、次に描き、正確に直す。シートで一貫性を保ち、アングルでカメラを思いどおりに操り、「領域を修正」とPro Studioで細部を調整できます。各ステップを踏むことで、次のステップにかかる費用が抑えられます。